第1回コロンボギターコンクールの開催

今回開催された《第1回コロンボ・ギター・コンクール》は、スリランカにおいて初めての、クラシックギターに特化したコンクールでした。しかしながら、最初から計画されていた企画ではありません。講習会や今後の展望について、現地の関係者と食事をしながら話していた際、「じゃあ、コンクールをやろう」という一言が、ごく自然に出てきたことが始まりでした。

正直なところ、その場では「本当に人が集まるのだろうか」という不安のほうが先に立ちました。スリランカでは、ギターに限らず、音楽コンクールに出場するという文化自体がまだ一般的ではありません。ギターに特化した大きなイベントの前例もほとんどなく、参加者の数はまったく読めない状況でした。その不安は、募集を始めてすぐに現実のものとなります。

応募者は、締切2週間前までゼロ。

締切が近づいても状況は変わらず、「もしかしたら誰も来ないのではないか」という空気が、関係者の間に漂い始めました。それでも大学や音楽関係者を通じて声をかけ続けた結果、締切直前になって少しずつ応募が集まり、最終的には全国各地から23名が参加することになりました。年齢は9歳から39歳までと幅広く、クラシックギターを学び始めて間もない奏者から、ある程度の演奏経験を持つ奏者まで、その背景もさまざまでした。

こうして無事に「第1回コロンボギターコンクール」は開催されました。

現地の彼らにはあまり経験がないことなので、要項は私自身が日本国内やヨーロッパのコンクールに参加してきた経験をもとに現地の状況を踏まえて考えました。

当日は、年齢別にカテゴリーを設け、すべて自由曲での審査を採用しました。初開催ということもあり、予選は設けず、本選のみという形式です。完成度や技巧の高さを競うというよりも、これもまずは「人前で演奏し、評価を受ける」という経験を重視したためです。

演奏内容については、技術的・音楽的に未熟な部分が多く見られたことも事実です。基礎的な奏法や音楽的知識の不足は否めませんでした。しかし、これまでギターコンクールという文化が存在しなかった国において、これほど多様な演奏が一堂に会したこと自体、率直に驚くべき出来事でした。“第一歩”としては、十分に意義のあるものだったと言ってよいでしょう。

また、技術や知識の不足が、演奏の価値を損なうものではないことも、改めて実感しました。音楽を通して何かを伝えようとする意志が感じられる演奏には、確かな魅力があります。審査の過程では、そうした瞬間に何度も立ち会うことができ、審査員として大きな喜びを感じました。
このコンクールの大きな収穫だったと思います。

とりわけ印象に残ったのは、グランプリを受賞した14歳の奏者です。

楽譜を読むことができず、すべて耳コピで覚えたという演奏でしたが、音が鳴った瞬間、会場の空気が明らかに変わりました。技術的な完成度とは別の次元で、聴き手の集中を一気に引き込む力があり、審査員全員が強い印象を受けました。

そのほかの出場者の選曲にも興味深い傾向が見られました。
日本では近年、自由曲として選ばれることが少なくなった《タンゴ・アン・スカイ》や《カヴァティーナ》といった作品が多く演奏され、日本と変わらぬ「ギター愛」を感じさせる一方で、インド音楽の要素を取り入れたエチュードや組曲など、現地ならではの文化的背景を反映した選曲も印象的でした。

本コンクールの開催にあたっては、日本の弦楽器専門輸入卸である 株式会社S.I.E. 様の多大なるご協力を賜り、そのご支援により、豪華な賞品の授与が実現いたしました。
最優秀グランプリには、同社より約27万円相当の〈ARANJUEZ 720〉とアランフェスケースが提供されました。物価水準を考えれば、これは現地において1年分の年収に相当する価値を持つ賞品であり、参加者にとってはまさに象徴的な存在だったと言えるでしょう。

また、全出場者には参加賞として、サバレス社のアリアンス・カンティーガ・プレミアム弦が贈られました。現地では流通していないこの弦は、参加費を上回る価値を持つものでした。さらに、私からも日本で広く使われている耐水ペーパーを、ささやかな参加賞として手渡しました。

それぞれの奏者が「今の自分の立ち位置」を知り、他者の演奏に触れること、そして次の目標を具体的に思い描くきっかけになることを意図して設けた場でした。このようなプラットフォームが存在しえなかったスリランカのクラシックギター界においては、大きな第一歩であったのではないかと感じています。

人が集まるのかどうかという不安から始まった試みでしたが、結果として、舞台に立った一人ひとりにとって確かな経験が残ったことは間違いありません。

完成度よりも、まず“場が成立した”という事実そのものに、このコンクールの意義があったように思います。

このコンクールの水準について考えるとき、私は先輩ギタリストたちからよく聞かされてきた言葉を思い出します。
「日本のクラシックギター界にも、かつては想像もつかないような手探りの時代があった」という話です。そこから半世紀以上を経て、現在の環境が築かれてきました。そうした歴史を踏まえると、このスリランカの若いギタリストたちもまた、自分たちの手で新しい未来を切り拓いていくのだろうと感じています。

音楽は本来、競争のためのものではありません。
それでも、同じ舞台に立ち、互いの演奏を聴き合うことで、全体の水準が少しずつ底上げされていく力があることも確かです。今回のコンクールが、この国のギター史における小さな一歩として刻まれるのであれば、それ以上に喜ばしいことはありません。

   

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